遊んだ。
https://www.sidelabs.com/coffeeinc2/ja/
いいぞーこれ、いい。特にマーケティングというものをそれなりの大きな組織でやっていて、「とりあえず何かしらのスペシャリストみたいなことはできてきたな」というくらいの若手に超おすすめだ。
Cofee Inc 2、何がすごい?
とにかく、資本主義の中で闘おうとしたときにカフェ業を中心としたあらゆる闘い方が許されていて、そしてそれらが結構リアルかつキャッチーに描かれている。
ビジネスロケーションという変数の作り込み
出店したい立地を決めたら、最初の店舗を作りましょう。インテリアや外装、備品にもこだわりを持って。店員を雇い、豆を仕入れ、メニューと価格を決めて、宣伝活動にも精を出して経営を軌道に乗せます。
店長も雇うことは可能で、日々の業務を委任することもできます。
カフェのエリアマーケから店舗運営はもちろん。
今回のバージョンでは全て実在する都市を採用しました。東京を始め、サンフランシスコ、シカゴ、ニューヨーク、ロンドン、パリ、ベルリン。あなたの珈琲ビジネスを世界展開に。
どの国も独自のGDP成長率、中央銀行の政策金利、生活物価があります。地理的な戦略の違いも成否に左右します。
国を跨いだ際に悩まされる諸変数についても読み込まれている。
マネーゲームとしての作り込み
もちろん経営なので、会計的な諸々も関わってくるよね。
損益計算書、貸借対照表に加え、今回のバージョンではキャッシュフロー計算書も登場します。会社の財務状況をより本格的に細かく把握できるようになりました。
そしてこっからがすごい。
投資銀行は株式公開の手続きや、公募増資、ライバル企業の買収の手助けをしてくれます。でももしあなたの会社の経営が傾けば、逆にライバル企業が買収に名乗りを上げるでしょう。
なんと上場できる。マジかよ。みんなは自分の会社を自分の意思で上場させたことある?ない?おれは、ある。
上場すれば上記のような意味不明なマウントも取れるようになるし、上場して資金調達の規模感が大きくなってからのお楽しみはこちらだ。
珈琲ビジネス以外にもビジネスを拡張できます。不動産や株投資です。あなたの会社も珈琲ビジネスよりも投資ビジネスの方が規模が大きくなる日が来るかもしれません。
カフェ業態以外での利益創出もOK。マジかよ。いろんな会社が実は調子いいけど本業があんま振るってなくって投資だの不動産だので支えられてたりするじゃないですか。「なんでなん?」「あれどういうこと?」っていうのをなんとゲームを通じて体感することができます。なんでやねん。
これだけ盛りだくさんで300円。意味がわからない。エナジードリンクとか缶ビールと同じくらいなの。絶対こっちの方がいいじゃん。
coffee inc 2で遊んでみた気付き
ここからは個人的に2年分くらい(実際の時間にするとどんくらいなんだろ、2時間くらい?)経営してみての気付き。
マーケットポテンシャルが全て
飲食業態かつ店舗での販売になるため、初期投資が重い。そしてその初期投資の中でも店舗選びの時点でその店舗の収益能力がかなり決まる。
その後のマーケティングやプライシングも重要ではあるけど、まずはマーケットポテンシャルが全て。人通りが多くても買われなければ店舗としては赤字になるし、もともと「人流は必須だろ」と思って大通りを中心に出店してたけど、売れ行きが下がった時にはやはり固定費として乗ってくる家賃のほうが全然しんどい。
一時期ハイリターンを狙うために一等地に出店してたけど、売りのトップラインから利益に視点が変わるフェーズにおいて渋い時に赤字リスク抱える構造になっていることに気づき、やっぱりバランスって大事なんだなと思った。
特にグローバルに展開するようになるとその国ごとの消費の地力みたいなものがあるっぽく、そこの見極めが大事なのだと気づいた。物価も違うし、法令も違う。無理なところで頑張ることに意味がない。撤退基準、足切りライン、マジで大事だし、バーティカルなブランドやサービスにおいて、やるべきことというのはめちゃめちゃ抽象化すると「初期検証→他店舗展開でのニーズ独占」をいかに早く回せるか、でもあるなと思った。(特に資金が潤沢になって以降)
撤退基準をちゃんと決めて守りましょうね、なんて本業では当たり前のように言っていたわけだけど、いざ自分で運用するとなるとなかなか後ろ髪引かれることも多くて悩ましい。悩ましいけどやるんだが。
今のところは、大当たりしている国で一等地にハイエンド店舗(と自分で決めてる)で大型収益にチャレンジしつつ、外さない国のローカルなエリアで地道に数で稼いでいく形で土台を担保するスタイルに変革させている。
固定費はマジで悪
このゲームで言うと重たいものは人件費と賃料。ほかに売上連動のコストなどもあるけど、良くも悪くも利益率にヒットするのは売上とも火もづかないこいつらである。
賃料について
賃料は人流が見込めるところにホイホイ投資していくと、「あれ、なんかおもったより利益率低いぞ?」っていう気づき方で気づくことになる。つらい。人通りはあっても購入されない、あるいは競合店舗に人が吸われるという状況が発生し、そもそもの売り上げが下がったため固定費で赤が出る構造になっているケースが多い気がする。
そして店舗の運営改善でこれらがどうにかなる変数じゃないことに気づき、何店舗か普通に畳むことになった。学びである。売り上げは伸びても固定費が高くて旨みが少なければ、全然畳むぞというスタンス、ワイは経営者なので。
人件費について
次に人件費。これは各店舗に配置できる雇われ店長をコントロールできるかできないか次第なのだけど、概ねできないケースが多かった。(ゲームなので多少のデフォルメはありそうだけど、上手くいかないものである、という前提でいいと思った)
彼らは赤が出ない範囲で人数を増やし、バイトの時給を釣り上げる。みんな大喜び、労働環境は青信号。ただし、利益は出ないのでこっちとしてはかなり困る。残念ながら店長から人事権を取り上げ、バンバン人を切り、時給についても是正することになった。そのプロセスでだいぶ現場から罵詈雑言を浴びせられる(そりゃそう)のだが、ぶっちゃけ会社が潰れるよりは全然マシである。申し訳ない。学びである。
こちらは上場準備のためコーポレートの体制を整えていたりもしていて、そっち側で固定費の比率が高くなっていたので、カフェ事業の利益率はだいぶシビアにコントロールすることになった。学びである。
とはいえ成長・利益は(ほぼ)全てを癒す
ただ、利益が出ることでできるチャレンジも色々ある。会社としての福利厚生や人事制度をそろえたり、SOを発行してみたり、それによってスタッフのトラブルは減る。人斬り抜刀斎(人事的な意味で)としてあーだこーだ言われていたときのスタッフも、その後はおとなしく働いているのである。そんなもんなのかな。(実物での実験はまだしてない)
採用や人事周りのタスクが減るから商品開発にも力を入れられるようになり、安く、より良い製品を供給できるようになり、さらに利益率も上がる。なんなら競合への競争力も上がる。まあゲームではあるんだけど、人事系のゴタゴタは確かに減って行ったので、やはり成長は色々なものを癒すんだなあを実感。(普通に仕事でもそうだけどモメンタム大事。)
そして、「急ぎで必要なこと」と「後回しにしてもいいけどいつかは必要なこと」は、どっちも必要なことである。なので急ぎで必要なことをしつつ、それらをなんとかして効率化していかないと、土台が滅びるという構造が肌身をもって感じられた。マジ大事。
重要な変数は中央管理のほうがいいかもしれない
それはこのゲームだからかもしれないけど、特に採用とプライシング。採用は固定費として乗ってくるし、プライシングも利益率と競合との競争力に大きく関わる。採用は上記した通り。
プライシングはいまのところ個別最適化がうまく行っていないので、利益率担保のために中央管理にしている。競合出店などで気圧される場合のみ、プライシングが得意そうな店長を配置し、任せてみて、2ヶ月程度でどうするか決める。でも本来これは自分がやりたいコントロールではない、なので実際にやるとなったら、「人とか採用ってめちゃめちゃ大事なんだな」と痛感しているし、組織風土とか文化とか、価値観みたいなものを浸透させていくことこそが経営者や管理職のやることだよなと再認識。
上場してからがまるで別のゲームになる
金が余る。そして迷う。さらに市場が成熟してきて競合も強くなってくる。既存市場の競争が激化する中「自分たちの強み」みたいなものの自覚がないと、戦略や戦術がブレて意味わからんことしちゃうな、という感触がある。
さらに言うと、今まではキャッシュを労働力に変えて収益化していたわけだけど、今度はキャッシュを使って金を産むと言うゲームになっていて、そこのルールチェンジに追いつけていない自覚がある。
これはもう自分の見聞不足なんだろうな以上でも以下でもない。なんとなく馴染みのある投資や買収なおを働くにはまだ資本のサイズが小さいし、連続的に今までの事業を続けているだけになっている。階段で言うと踊り場にいる。
競合と数字を比べると、特に利益の幅が結構違っていて、ここのカラクリがいまいちわかっていない。悔しい。競合は出店数も多いし、従業員もどうやら自社より多いみたいなのだが、なんであの高利益水準をキープできているんだろうか。悔しいぞ。そしてまた別の競合は直近四半期で赤を掘ってるらしいんだが、どういう投資をしてるんだろうか。気になる。
こういうのも、割と自社の成長戦略みたいなものが自分の中で腹落ちしてないから気になっちゃうんだろうな、と思っている。マーケティングの基礎オブ基礎に「競合を見るんじゃねえ、ユーザーと市場を見ろ」って言葉があるんだけど、いやはやこれは気になっちゃうしみちゃうよな、という気付き。なんにせよ、次の成長の種を見つけないといけない。大きな企業の経営者が忙しくあっちこっち行ったりしてるのは、こういうことなんだね。(たぶん)
【番外編】スターバックスはマジですごい。
まァ同業者として?やっぱり世界的なコーヒーチェーンとしてスターバックスさんなんかはベンチマークしたりするわけですよ。(ゲームとは全然関係ないけど)
スタバも実は結構情報開示をしている(そりゃそう)
スタバの投資家向け説明会、グローバル目線であらゆるリソース(観点)からスタバの今後の方針を語っていくっていうボリュームマシマシなイベント(約6時間)だけど、クリスプサラダワークスの宮野さんが翻訳&UX寄り外食チェーン産業のCEO観点でコメントしてくれてるnoteがあってめちゃおもろだったし、このセクションは読んでおいて損ないと思ったのでシェアハピ。
https://note.com/hiroshimiyano/n/n12d21d7859ff
ちな原文はこちら。https://investor.starbucks.com/events-and-presentations/current-and-past-events/event-details/2022/Starbucks-2022-Investor-Day/default.aspx
個人的に気になったのは以下。
従業員満足度と顧客満足度と業績の相関というのはいろんなところで言われてるけど、スタバも従業員満足度にはガチで取り組んでるし今後も投資していくとのこと。
この辺は「まさにそれな」が溢れてて改めて勉強になる。
- 労働力、から「タレント」へ
- コストセンターから「ライフタイムバリュー」へ(パートナーへの投資をコストと考えず、パートナーのLTVで判断する)
- 決まったスケジュール、から「いつでも働ける(anytime shift)」へ
- 時給、から「トータルリワード」へ
- 定型的なキャリアパス、から「パーソナライズされたキャリアパス」へ
- とくにシフト管理などは社内でツールを再開発するぞと宣言するくらい注力するみたい。
- 労働の流動化とかシフト管理の簡略化などは、まさにHR SaaS事業各社が最近センターピンを置いてるところなので、各事業ファイト〜と思った次第。
一方で従業員のストレスや課題などもまとまっていて、こちらは新規事業とか機能開発のヒントがあるかもな〜などと思ったり。
- 商品カスタマイズが多すぎて対応しきれない(テクノロジーや機器がついていってない)
- コーヒーを楽しんだり、パートナー同士やお客さまとつながる時間が足りていない
- 感情的にも精神的にもいっぱいいっぱい
- パートナーが十分にトレーニングされておらず、サポートを求めて不安になっている
- パートナーは所属感を求めており、コミュニティの一員であることを感じたい
業務の効率化もそうだけど、キャリア支援、Well-Being、メンタルヘルスケアなどが、こういった飲食業態では課題として大きいのかも知れないね。メルカリさんも最近ホットなスポットバイトに参入されたし、タイミーは大学生に聞いてみるとエグい支持だし、確実に時代は変わっていっているんだなあ。
https://about.mercari.com/press/news/articles/20240306_mercarihallo/
スタバのグローバルビジョン、えぐい。
この辺は自分の経営している大熊珈琲(DEKA-KUMA coffee)と比べてしまうけど、いやまぁそうだよな〜っていうのと、なるほどそういう考え方があるのね、てことで気づきがすごかった。もう直接宮野さんのnoteを読んだらいいと思うんだけど、とにかくすごいねん。
https://note.com/hiroshimiyano/n/na152fa521d7f
なんかもう、テクノロジーとかデスクレスSaaSの事業会社と同じこと&似たような投資規模になろうとしてるよね。25億米ドルて。
そして財務指標。
ここなんかはダイレクトに比較できちゃう。営業利益率ゥ。
財務目標
- 売上成長率 : 10%-12%
- オペレーションマージン: 段階的に向上
- EPS成長:15%-20%
- 配当利回り: 2%
https://note.com/hiroshimiyano/n/n3414a15db312
この事業規模でYoY10%、一個マイルストーンにしておくといいのかもしれない、とメモメモしました。
社会人同志諸君へ。
総じて「はじめにコトありき」を痛感する
一応経営をモチーフにしたゲームではあるし、変数もきっと実際の業務とは比べ物にならないデフォルメされているんだろうけど、なかなか度胸と地頭を試される、という観点では面白いゲームだと思う。300円で暇つぶしがてらこれらの「わからなさ」と「肝試し」を体感できるのであれば超上出来だと思った。
マーケという部署で働いていると、基本的には広宣が確保できた後の「出来上がった事業のマーケティング」を頼まれることがほぼほぼだったりするんだけど、じゃあその「出来上がった事業」ってどうやってできあがんの?みたいなところの解像度が人によってはかなり引き上がるんじゃないかな、と思ったりしている。
特に、何事もやはり「人を喜ばせて金の流れを生む」ことから始まっていて、いろんな仕事はあれども、事業の根幹はそれの連続でしかない、という感覚が身につくことはいいことなんじゃないかなと思った。
マーケターなんて名前にホクホクしてる輩はもれなく今後困っていくことになるのだけど、そうでなくても集客手法だけではなくて、経営に踏み込んでいこうな、というのはここ数年結構強めに語られていたわけだが、その一歩目としては結構いい感触だったな〜と思いましたとさ。
シンプルに面白いので、やり始めた人、どんどん情報交換しましょう。
そしてこのゲームを作ってくださったsidelabの野田さん、本当にありがとう。
現実世界でもうまいことやっていけるように頑張るぜ。
なんつって。
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